” 麻酔 “って何だろう。  全身麻酔 の構成要素と麻酔薬について

麻酔、ペインクリニック

 前回の” 麻酔 “って何だろう。では、麻酔の歴史などについてお話ししましたが、今回は、全身麻酔 の構成要素と麻酔薬についてお話しいたします。

全身麻酔 の3要素

 全身麻酔は、古くから3つの要素で成り立っているとされています。その3要素が「鎮痛」「鎮静」「筋弛緩」です。

鎮痛:痛みを取り除いたり、やわらげたりすること。手術麻酔では、オピオイド(医療用麻薬)この役割を担います。
鎮静:意識をなくす、つまり、眠ること。点滴から投与できる静脈麻酔薬や酸素や空気に混ぜて鎮静をかける吸入麻酔薬があります。
筋弛緩:筋肉の動きを止めてしまうこと。この薬を使うと呼吸も不可能となってしまいます。

これら3つの要素を調整しながら麻酔を行いますので、バランス麻酔と言われます。これにプラスして、循環動態(血圧や心拍数)や呼吸(人工呼吸の設定や空気の通り道の確保・維持)などの全身の状態を把握し、管理すること麻酔管理となります。

全身麻酔で使う 麻酔 薬について

 全身麻酔において麻酔薬に求められる条件は、意識がなくなり(無意識)、麻酔中の記憶もないこと(無記憶)が必要な条件と考えられます。さらに、麻酔薬の投与を中止すれば、麻酔をかける前の状態に戻ることも大切です。しかし、意識についての詳しいメカニズムは解明されていませんので、「どのように麻酔薬が作用することで意識をなくすのか」などの麻酔薬と意識の関連性についても同様にわかっていません

 一方で麻酔薬の作用する場所は解明されています。一般的な薬は1つのターゲット(受容体やチャネルなど)に対して作用しますが、麻酔薬はいくつかのターゲットに作用することで効果を発揮します。この複数のターゲットに作用する薬は非常に少ないと言われています。

  麻酔薬を投与方法で分類すると、点滴から投与する静脈麻酔薬気体として呼吸することで麻酔がかかる吸入麻酔薬の大きく2種類に分けられます。静脈麻酔薬は、薬の効果に個人差が大きく脳波を簡易的にモニタリングし参考にしながら麻酔がかかっているかを判断していきます。一方で、吸入麻酔薬は個人差が少ないため、脳波モニタリングを必ずしも必要とはしません。この吸入麻酔薬は現在セボフルランとデスフルランの2種類がありますが、成人の全身麻酔においてまずは静脈麻酔薬で麻酔をかけた後に麻酔を維持するため吸入麻酔薬を投与します。従って、吸入麻酔薬のみで麻酔が完結するわけではありません(小児の場合はこちら)。

鎮痛薬   オピオイドや区域麻酔(神経ブロックなど)で

 鎮静、筋弛緩は、麻酔中に効果を発揮し、投与が終了したらその効果もなくなる薬が使いやすく有用な薬と言えます。しかし、鎮痛薬に関しては、術後の傷の痛み(創部痛)に対しても効果を発揮する薬が有用と言えます。つまり、投与を中止しても効果が残る長時間作用の薬が有用と言えます。

 この主役を担っていたのがオピオイド(医療用麻薬)でしたが、オピオイドの過剰摂取による死亡数の増加(オピオイドクライシスと言われている)が欧米で問題視されています。従って近年では、オピオイドとは異なる作用の鎮痛薬や硬膜外麻酔・神経ブロックといった区域麻酔を組み合わせてオピオイドの使用量を減らすマルチモーダル鎮痛(multimodal analgesia)が勧められています。

筋弛緩薬

 筋弛緩薬を投与すると手足を動かすことはおろか、呼吸をすることもできなくなります。これにより筋肉の緊張がとれて、手術がしやすくなったり、近年増えている腹腔鏡を使った手術では手術中の体動によるトラブルを防ぐことができます。

 筋弛緩薬は、麻酔中のみに効果が出ていてほしい薬です。薬の開発が進んだことで、現在では筋弛緩薬の効果を阻害してくれる薬(拮抗薬)を投与することで、だいぶ安全に使うことが可能となりました。

まとめ

 今回は全身麻酔の要素とその薬について説明しました。

 全身麻酔は、3つの要素から成り立っており、それぞれの薬は日々研究・開発され、より良いものへと変わっていくと考えられます。一方で、鎮痛薬としての麻薬の使用は、できる限り減らしていく方針ですので、今後術後痛を含めた慢性疼痛の治療に麻薬以外の鎮痛方法を提供する必要が出てくると思います。

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