【麻酔科医からの視点】全身麻酔の 喫煙 による危険性

麻酔、ペインクリニック

 喫煙 は、さまざまな病気にかかる危険性を増大させることがわかっています。代表的な病気としては、癌、脳卒中(脳出血・脳梗塞)、心筋梗塞、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などです。そして、これら多数の病気の原因となっていることから、喫煙は予防可能な最大の要因とされています。

 それでは全身麻酔を行う上で、喫煙による危険性はどのようなものがあるのか、今回お話ししようと思います。

日本の 喫煙 者の割合

 日本における喫煙者の割合は、ここ10年間で減少傾向といえど、男性:27.1%、女性:7.6%(令和元年)と報告されています。年代別で最も多いのは、男性:40歳代(36.5%)、女性:50歳代(12.9%)です。
 数字だけをみると、意外と「喫煙者が少ないと思われるかもしれません。しかし、喫煙することで病気になる可能性が高くなった人が、実際に病気になり全身麻酔を必要とすることが多い。つまり非喫煙者より喫煙者が全身麻酔を必要とする可能性が高く、「全身麻酔を受ける患者さんにおける喫煙者の割合はさらに高い」と言えます。

喫煙 による影響

 喫煙による身体への影響は、タバコに含まれるニコチン、タール、一酸化炭素などの物質により生じます。以下が主なそれらの作用です。

  • ニコチン:気道(空気の通り道)の分泌物(簡単に言うと”“です。)を増やしたり、気管支を収縮させます。
  • タール:気管の収縮や気道を過敏にさせたり、線毛(気道のゴミを運んでくれる毛)運動を抑制する。
  • 一酸化炭素:酸素を運ぶヘモグロビンより強力に酸素と結合し、酸素を運ぶ量を低下させる。

 これらにより、喫煙者と非喫煙者を比較すると、「喫煙者は、気道の過敏性が増して痰が多く、気道は収縮しやすくなっている」と言えますね。また、受動喫煙による影響もこれと同じですので、近くで喫煙者がいる場合は注意が必要です。

全身麻酔での 喫煙 による影響や合併症

 さて、全身麻酔では、挿管チューブを口から気道に入れます。この挿管チューブ、体にとっては異物以外の何物でもないです。なので、体は外に出そうとして、痰を多く分泌したり、咳をしたりします。この防御反応が、喫煙者では過剰に起きます。つまり、手術中に痰が多く分泌され、最悪の場合痰に溺れてしまう危険性があります

 また、喘息を持っている方が喫煙していたらどうでしょうか。(基本的には禁煙を指導されているはずですが、、、)挿管チューブや大量の痰で気道が刺激され、さらに喫煙により過敏になった気道は容易に収縮し、術中や術後に喘息発作が誘発される危険性が増大します。重症発作が生じた場合、呼吸することができずに死亡することすらあります。喘息持ちの喫煙者は要注意で、禁煙できない場合は麻酔をお断りすることすらあります

 この他にも、創部を含めた感染症、肺合併症、脳神経合併症、骨の癒合(くっつき)の悪さなどの術後合併症が増加することが明らかになっています。

禁煙による効果

 それでは、禁煙によりどのような効果を得ることできるでしょうか。禁煙期間により、効果は以下のように異なってきます。

  • 2~3日:酸素運搬量の改善(一酸化炭素とニコチンが体から減っていくため)
  • 3週間:創部(傷)の合併症の減少
  • 4週間以上術後呼吸器合併症(肺炎など)の減少(長期であればあるほど効果あり)

 また、禁煙により合併症の発生率を増加させることを防げるので、短期間の禁煙でも意味はある手術が決まったら、禁煙を行うようにしましょう

 そして、より長期的に手術後も禁煙した場合、癌疾患かどうかによらず予後の改善に繋がると報告されています。

まとめ

 今回は、全身麻酔における喫煙の影響についてお話ししました。喫煙されている方は、喫煙による影響をしっかり理解していただき、是非禁煙してみてください。病院によっては禁煙外来もありますので。

コメント

タイトルとURLをコピーしました