【 麻酔 】 体温管理 の重要性〜 低体温 〜

麻酔、ペインクリニック

 人間は恒温動物(外気温が変化しても 低体温 や高体温とならず、体温を一定に保つことができる動物のこと。鳥類と哺乳類がこれにあたる。)であり、通常では36.1~37.8℃(中枢温度)の間で体温は調節されています。しかし、麻酔・手術中においては、ほぼ全例で低体温(中枢温度<35℃)となり、術後まで続く場合もあります。

低体温 により生じる有害事象

 心臓外科の手術で意図的に低体温にすることを除けば、周術期における低体温は、頻繁にみられる合併症の一つです。この低体温によってどのようなことが起こるのでしょうか。

  • 麻酔薬の効果が残存(麻酔から醒めにくい、筋弛緩作用の残存)
  • 凝固障害や血小板機能低下による出血傾向(血が固まり難くなる)
  • 創部感染症の増加
  • 心血管合併症(心筋虚血や不整脈)

など、さまざまな有害事象をきたす可能性が出てきます。

体温調節の仕組み

通常、人体の体温調節を考える場合、人体は中枢と末梢の2つのコンパートメントモデルとみなすことができます。

 中枢コンパートメント:脳・胸腔・腹部で構成され、中枢温として厳密に維持・調整されている。(その調整範囲は、数十分の1℃以内と言われています。)
 末梢コンパートメント:主に腕や脚の皮膚と皮下脂肪で構成され、中枢コンパートメントを緩衝する役割を有し、その調整範囲は広くなっています。普通であれば、末梢温は中枢温より5〜6℃低くなっています。

温度情報の伝達経路:
末梢で入力された温度情報→外側脊髄視床路→視床下部や延髄縫線核などに入力→視床下部前核や視索前野で統合される。

 寒冷刺激に対し、人体の主な体温調節機構は①末梢動静脈シャント血管収縮と②シバリングにより熱を保持したり、産生したりします
 ①末梢動静脈シャント血管収縮:血管収縮を行い四肢の血流を調節し体外への熱の損失を制御する。寒い場所に行くと手足の先から冷たくなりますよね。あれもこの反応の一部です。雪山で遭難などした場合、手足にチアノーゼなど出てきたりもします。
 ②シバリング:骨格筋に生じる不随意で小刻みな運動のこと。寒い時にガタガタ震えるアレです。筋肉の細かな収縮により熱を産生しています。

術中の体温低下のパターン

 術中の体温低下は、3つの特徴的な段階を経ていきます。

第1相:全身麻酔導入や脊髄幹麻酔の効果発現後、中枢から末梢に向けて体温の再分布が起きます。これにより、最初の1時間で中枢温は1〜1.5℃低下する。これは、中枢体温調節機構の障害によるものとされています。

第2相:代謝熱生成を超える熱損失による緩やかな中枢体温の低下が2〜3時間続きます。ここでは、環境温、皮膚や体腔の外科的露出の程度、患者の保温や加温状態によってその低下の程度は変わってきます。

第3相:体温調節性血管収縮が活性化されてきますので、中枢体温は定常状態となり第2相での要因に関係なくそれ以上の低下は生じ難くなります。しかし、末梢からの熱喪失は持続しますので、中枢体温は一定となりますが、全体の体熱量は低下し続けます。

術中 低体温 の仕組みをまとめると

 術中低体温症は、
麻酔による体温調節機能の抑制
手術室の環境温への曝露(外科医が手術着を着ているため部屋の温度を下げる事による。)
体腔の開放露出(開腹手術ではかなりの熱損失があります)
などの組み合わせにより生じます。これらの要因のうち、術後低体温症の最も重要な要因となるのが麻酔による体温調節機能の抑制です。
 麻酔薬が体温調節機能を抑制する機序については、正確に解明されていません

術中 低体温 の予防方法

  1. 麻酔導入前の皮膚に対する予熱:麻酔導入前に患者を温めることで末梢組織の温度を上昇させ、中枢と末梢の温度勾配を小さくすることで、再分布による中枢体温の低下を約0.4℃防ぐことができる。
  2. 断熱ブランケット:手術室の室温低下による皮膚からの熱損失を30%削減する。
  3. 加温装置による皮膚の加温:皮膚は簡便かつ安全に加温でき、最も一般的な方法とされる。ほとんどの熱損失は皮膚から失われていることから、この方法が積極的に行われている。
  4. アミノ酸製剤安静時エネルギー消費を刺激することで基礎代謝以上に熱産生を増加することで低体温を避けられると期待されているが、正確な機序は不明である。約0.46℃の体温上昇効果やシバリングの減少効果も報告されているが、製剤や投与量については確立された見解はない。
  5. ECMOなどの血管内熱交換カテーテル:この加温システムよりもはるかに加温効果が高いが、その侵襲性や高価な治療であり使用は限定的である。

まとめ

低体温は、さまざまな合併症を生じうるため可能な限り予防することが重要である。

多くの施設では、外回りの看護師が体温管理を担っていることが多いと思われるので、低体温の機序などを理解し、予防方法を術前より計画することが重要と思われる。

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