【 麻酔 】術後の吐き気・嘔吐( PONV )

麻酔、ペインクリニック

 全身麻酔の合併症の一つに悪心(吐き気)・嘔吐があり、頻度が高い合併症です。これを麻酔科医の間では PONV (post operative nausea and vomiting)と呼んでいます。術後、傷が痛い中で気持ち悪さや嘔吐は耐え難いものがあり、可能な限り術後のPONVが発症しないように麻酔科医は常に考慮しています。

PONV の発症率

 PONVは、発症予防を行わないと発症率が約30%、発症リスクが高い場合は約80%にまでのぼると言われています。リスクが高い人は、100人いたら80人、10人なら8人、、、ほとんど全員がPONVを発症することとなります。やはり、高頻度に発生する合併症であり、適切な対策が必要と考えられ、2003年にガイドラインが策定されて、現在まで6年毎に改訂を行い最新バージョン2020年発表されました。

PONV のリスク因子

 では、PONVを発症しやすい人とはどんな人なんでしょうか。
→大きく患者関連因子、麻酔関連因子、手術関連因子に分けて説明します。

患者関連因子
①性別:女性は男性に比べ2.6倍発症しやすい。原因は明確ではないが、ホルモンに関連している可能性がある。

②年齢:成人では、若年者ほど高リスク。歳を重ねるとリスクは減少していく。機序は不明。

非喫煙者喫煙者に比べて1.8倍発症しやすい。延髄のドパミン受容体とニコチンが関連している。

PONVの既往乗り物酔いしやすい人:これらのどちらかがある場合、2倍発症しやすくなる。

麻酔関連因子
吸入麻酔薬:プロポフォールを用いた全静脈麻酔薬(TIVA;total intravenous anesthesia)と比べ1.8倍発症しやすい。この因子に関わるPONVは術後早期の2~6時間でのPONVリスクが上昇する。

麻薬の使用(フェンタニル、モルヒネ):術中、術後使用で使用量依存性に発症率は増加する。使用しない場合に比べて1.4倍発症しやすい

麻酔時間:長時間になれば、麻薬使用量や吸入麻酔薬使用量も増加するので必然的ではある。局所麻酔に比べて全身麻酔では10.6倍PONVが起きやすい

手術関連因子
手術部位:腹腔鏡を用いた手術や婦人科手術、胆嚢摘出術では発症リスクが高くなる。

手術時間:手術時間が長くなれば、もちろん麻酔時間も長くなるため。

③術後の創部痛や内臓痛

 さまざまな因子が関連していますが、麻酔科医は主に患者因子について術前に評価(Apfel simplified score, Koivuranta score)しそのリスクを把握しています。

PONV の予防策(医療者向け)

 ①術後鎮痛の目的でさまざまな鎮痛方法を併用して行う:ロキソニンやアセトアミノフェン、局所麻酔薬を用いた区域麻酔などを行い、麻薬の使用量を極力減少させる。

 ②デクスメデトミジン(鎮静薬)の使用:この薬には鎮痛作用に加えて制吐作用がある。皮膚切開前に1μg/kg投与するとデキサメタゾン8mgと同等の効果を得られる。

 ③プロポフォールを用いたTIVA:プロポフォール自体に制吐作用がある。吸入麻酔薬に制吐薬を併用した麻酔と同等の発症率である。

 ④デキサメタゾン5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロン)と比較してPONV発症率は同等であり、強い制吐作用効果を持っている。また、鎮痛薬の必要量低下・回復の質を向上させ入院期間の短縮につながる可能性も報告されている。一方、短回投与であれば副作用発現もほとんどない

 ④ドロペリドール(0.625~1.25mg),メトクロプラミド(25~50mg):これらも有効である。

まとめ

 PONVの発症は、術後の満足度を大きく低下させる因子の一つです。できる限り予防策を講じて、発症させないことが重要となります。

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