以前、麻酔科医の視点から見た高血圧について紹介しましたが、今回は 血圧 と昇圧薬について紹介します。医療従事者向けの内容になるかもしれませんが、なるべくわかりやすく紹介できればと思います。
血圧 の定義について
まず、血圧と一言に言っても何を意味しているのでしょうか?
→「 心臓から動脈に送り出された血流が血管の内側の壁を押す力 」
このように表現することができます。そして、血圧は様々な要因により常に変動しており、一定に保たれるということはありません。
では、血圧を決める要因はどんなものがあるでしょうか。
→①心臓の収縮1回で送り出される血液量(1回拍出量)、②血液が流れ込む血管の抵抗力(末梢血管抵抗)、③血液自体の粘りっこさ(粘稠度)などこの他にも様々な要因があります。
※ヘパリンを投与すると粘稠度が低下するため血圧は低下します。
そして、血圧は心拍出量(1分間に心臓から送り出される血液の量)を用いて、以下の式で定義されています。
血圧 = 心拍出量 ✖️ 末梢血管抵抗
= 心拍数 ✖️ 1回拍出量 ✖️ 末梢血管抵抗
血圧 を上げる昇圧薬
血圧の定義から以下の2通りの方法で血圧を上げることが可能です。
①心拍出量を上げる(β作用) ②末梢血管抵抗を上げる(α作用)
このα、βは、心臓に発現している受容体のことで、昇圧薬がこれらの受容体に結合することで血圧を上げます。昇圧薬はその種類により、α受容体のみ、β受容体のみ、またはその両方に作用するものがあります。
では、麻酔で使用する頻度の多いものから紹介して行きます。
●エフェドリン:β受容体に作用することで心拍出量を上げるタイプ。投与後一度血圧が低下したのちに上がってきます。40mg/1A (1ml)の製剤なので、成人であれば生食9mlと合わせて4mg/mlで使用することが多い。実はこのエフェドリンは、漢方の麻黄の成分としても知られています。
●ネオシネジン(フェニレフリン):α受容体に作用することで末梢血管抵抗を上げるタイプ。投与後速やかに血圧上昇が見られる。また、反射性の徐脈となることが知られている。1mg/1A(1ml)の製剤なので、成人であれば生食9mlと合わせて0.1mg/mlで使用することが多い。持続投与を行う麻酔科医も多い薬剤です。
●ノルアドレナリン(ノルエピネフリン):α受容体に作用し末梢血管抵抗を上げますが、高容量ではβ受容体にも作用する。このノルアドレナリンは身体のホルモンとして副腎という臓器で産生されており、交感神経の情報伝達物質として役割を担っています。1mg/1A(1ml)の製剤で、施設によって使用する濃度は様々になります。多くは持続投与で用いられますが、濃度を調整して単回投与される場合もあります。
●ドブタミン:β1受容体に作用し心拍出量を上げるタイプ。弱いα受容体作用も有する。シリンジに溶解された製剤が多く3mg/mlの濃度のものを使用している。心機能が低下している症例に対して持続投与を行うことが多い。催不整脈作用があるため不整脈出現時は減量または中止を考慮する必要がある。
●ミルリノン:cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼIIIを阻害し、細胞内cAMP濃度を上昇させて、カルシウム濃度増加による心拍出量を上げるタイプ。末梢血管抵抗は低下する。他の薬剤と作用機序が違う。
●アドレナリン(ボスミン):α、β受容体両方に作用するタイプ。心臓が止まった場合や上記昇圧薬で血圧が維持できない場合、アナフィラキシーショック、重症喘息に使用する。単回投与、持続投与、喘息の場合は吸入薬としても使用される。
※エフェドリン、ネオシネジンは日常の麻酔でよく使用されており、研修医も使用する機会が多い。濃度に関しては、施設や患者の状態、小児の場合などで大きく変わるため、確認の上使用してください。
※イノバン(ドパミン)という昇圧薬もありますが、今回は割愛させていただきます。
まとめ
血圧の定義からを考えてもらえば、薬の作用によってどのように昇圧作用を有するか分類できるのでこれをもとに理解していただければと思います。
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